置いて行かれた子猫

 

2018年4月9日、オスの子猫を保護した。
 

 
少し前から、庭で子育てしていた野良猫がいたのだが、朝突然移動を始めた。
子猫は全部で4匹いることを確認していたが、そのうち黒毛の2匹を連れて、子育ての場を移すようだった。
しかし、もう2匹子猫がいるはずなのに、母猫は戻ってきてうろちょろはするものの、子猫を連れて行こうとしない。
しばらく様子を見ていたが、2、3度姿を見せた後、どこかへ消えてしまった。
 
野良猫が子育てをしていた場所を覗いてみると、そこには残りの2匹がいた。
しかし、そのうち1匹は既に息を引き取っていた。
 
どうやら、子猫が1匹死んだために、母猫は子育ての場を移すことにしたようだ。
もう1匹生き残りがいたのだが、その子猫は風邪を引いているようで、あまり鳴かなかった。
そのため、母猫に存在を認知されず、置いてきぼりを食らったのだろう。
 
我が家の庭では以前にも似たようなことがあり、そのときは母猫が戻ってくることを期待して様子を見たが、結局戻らず、子猫の様子を見に行ったときには既に息を引き取っていた。
 
同じ轍は踏みたくないと、今回は保護することにしたのだった。子猫の面倒を見るのは久々であり、動物病院にてアドバイスしていただくことにした。
亡くなった子猫を埋葬してやると、私は生き残った子猫を連れ、動物病院へ向かった。
病院で診て頂いたところ、いわゆる「猫風邪」に感染していることがわかった。なんでも、野良猫の8割は感染していると言われているらしく、残念ながら珍しくないとのこと。
それ以外では特に問題は見られなかったが、とにかくミルクを飲むかどうかが勝負だと言われた。飲まなければ、強制授乳するしか無い。そのときはまた、病院に連れていくことになる。
 
私は帰り道に子猫用哺乳瓶と粉ミルクを買うと、早速子猫にミルクをあげることにした。
まずは濡れたティッシュでお尻を刺激し、排便を促す。うんちは出なかったが、おしっこは出た。排便後の子猫は食欲が出て、ミルクを飲みやすくなる。
 
しかし、私が不慣れなのもあって、なかなか飲んでくれない。四苦八苦した挙げ句、ほんの少しだけ飲ませることに成功したが、あまり飲まないようでは栄養失調になってしまう。
そうこうしているうちに、子猫は寝てしまった。諦め半分で寝ている子猫の口に哺乳瓶の乳首を突っ込むと、先程までの苦労が嘘のようにミルクを飲んでくれた。
これなら大丈夫だろう。口の周りを拭いてやり、ぐっすり眠る子猫を眺める。
 
なんて小さな身体なのだろう。
強く握れば壊れてしまいそうだ。その身体に宿る生命の息吹を感じて、私は暫し黙した。
 
保護したからには、この生命の最期まで守り続ける義務が、私にはある。
何としても守らねばならない。覚悟は決まっていた。そうでなければ保護などしてはいけない。
生命を預かるとはそういうことだ。
小さくくしゃみをしながら眠りにふける子猫を見て、私も眠くなってきた。
数時間後にはまたミルクをやらねばならないが、少しの間、私も休ませてもうらうことにした。
 
この子猫に、名前と付けてやらねばなるまい。
いくつか候補が思い浮かぶ。シュラキン(酒乱童子金太郎号)、ソロン、パイワケット、パンサ、ラテル、サヴァニンなど。
思いついたのはどれも神林作品に登場する猫たちの名前だった。ラテルは例外だが。
さて、どれにしよう。呼びやすく、かつ、子猫の将来を祝福する名にしたい。
候補に残ったのは、ラテルとソロンだった。
ラテルは宇宙海賊に襲われたキャラバンの唯一の生き残り。ソロンは飼い主の戻らない家を脱出して生き延びた猫だ。
どちらも、力強く生きて欲しいという思いから選んだ名だった。
しかし、ラテルは後に宇宙海賊課の一級刑事となり、海賊絶対殺すマンとして大暴れする。
これはエネルギーが大きすぎる。それならば猫らしく、独りでも強く逞しく生きるソロンのようであって欲しい。
 
そうして、子猫の名前はソロンに決まったのだった。